DXを実現するトップの意思。ロレアルの事例に学ぶ化粧品業界のDX

ロレアル・グループは、世界中で愛されている数多くの有名ブランドを擁する世界最大の化粧品会社です。ロレアル パリ、ヴィシーラボラトリーズ、メイベリン ニューヨーク、ガルニエ、ランコム、イヴ・サンローランなどのブランドは世界中の人々に知られています。

「Because We’re Worth It」のキャッチコピーなど、記憶に残るマーケティングで知られるロレアルグループは、59年以上にわたりカナダで事業を展開し、1,300人以上のカナダ人を雇用しています。今日は中心街にある華麗なモントリオール支部で、ロレアル・カナダのチーフマーケティングオフィサー、Stéphane Bérubé氏にインタビューしました。

108年の歴史を持つ組織が競争と変化が激しくなる社会において、いかにして存在感を保ち続けているかについて話し合いました。

ロレアルが掲げるデジタルトランスフォーメーション(DX)の3つの重要な目標

ーー貴重な時間をいただき、ありがとうございます。世界中に39以上の有名なブランドを持つCMOとして、ロレアル・カナダでの任務と、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が組織をどのように変革させてているかについてお話しいただけますか?

ええ、もちろんです。 まず最初に、一つだけはっきりさせておきたいことがあります。デジタルビジネスと伝統的なビジネスの間に隔たりはないということです。

ロレアル・カナダのチーフマーケティングオフィサー、Stéphane Bérubé
ロレアル・カナダのチーフマーケティングオフィサー、Stéphane Bérubé氏

私は15年間ロレアルで様々な役割を担ってきました。その中にはロレアル・パリ事業のゼネラルマネージャーも含まれていました。過去15年でロレアルの様々な変革を見届けてきましたが、現在我々の変革は業務のあらゆる部分において、全社的にデジタル能力を加速させることにあります。

ーーロレアル・カナダにおけるDXとは何かを具体的に教えてください。

カナダでは3つの重要な目標を掲げています。すべての活動は、組織が強力なデジタル機能を構築した場合にのみ達成されます。

1つ目は、売上の20%をオンライン販売で実現することです。これは、全国の小売パートナーと連携し、優れたeコマース能力を構築することが必要です。ロレアル・カナダは、様々な小売店と長年の素晴らしい関係を築いており、我々には真似できない規模と知見があります。オンラインでの取り組みは、彼らの知見に、我々の知識と美容に関する独自の専門知識を加え、このカテゴリーの成長を共に加速させることができます。        

2つ目は、カナダの50%以上の接点を持つお客様の豊富なデータを活用することです。我々は、お客様と適切にパーソナライズされた関係を構築するために、お客様に関する意味のあるデータを構築することを目指しています。これは、単なる購買習慣や取引データだけではなく、肌のタイプや好みのカラーリング方法などの要素を意味します。このようにお客様について学ぶことでマーケティング企画を最適化するだけではなく、より良い新製品やイノベーションを生み出すことができるのです。

お客様について学ぶことで、より良い新製品やイノベーションを生み出すことができる

最後に3つ目は、我々のブランドと製品に対する100%の「LOVE」をお客様に持っていただくようにしたいと考えています。この目的のためは、従来の認知度を高めるための投資から、お客様との真のエンゲージメントを構築することへと思考を転換することが必要です。

いずれもデジタルに対してのスキルや能力がトップクラスになければ実現することは不可能です。

DX実現に向けたトレーニングは社長を含む経営トップから順に行うべき

ーー迫力たっぷりの目標ですね。これを実現するために、組織はどのように変化してきたのでしょうか?

これは、社内のスキルと専門知識を積極的に「スキルアップ」させることから始まります。我々は社内で適切なスキルを保持し、スタッフが適切な専門知識を得ている状態を確保したかったのです。そのためには、ソーシャルメディア、CRM、E-Commerce、さらにはデータの専門家を雇用はもちろん、合わせて社員トレーニングに力をいれることも重要でした。

ロレアル・カナダのデジタルトレーニングは、組織の最上層部から始まり、営業、オペレーション、ロジスティクス、そしてもちろんマーケティングに至るまで、すべてのチームを対象としています。これはカナダだけのことではなく、経営陣のリーダーシップチームによるグローバルな取り組みです。

私たちの組織のすべての側面には、デジタルに関する最新情報を得るための強力なトレーニングプログラムがあります。技術的な詳細や複雑さの点でデジタルの変化のスピードは速いので、このトレーニングは絶対に欠かせません。

人材の採用と育成に加えて、私たちは社内に新たな機能も構築しました。現在は、ソーシャルメディアへの取り組みをサポートするために、独自のコンテンツファクトリーを運営しています。また、パフォーマンスマーケティングへの投資を確実にコントロールするために、独自のトレーディングデスクも構築しました。

アイディア着想からリリースまでのスピードはDX成功のための重要な要素

ーーデジタルファーストの組織であることへの世界的な取り組みは驚くべきもので、スキルや能力への投資には余念が無いと聞いています。こちらの投資はカナダで成果は出ているのでしょうか、それともまだ成果は出ていないのでしょうか。

もちろん、いくつもの成果がありました。ロレアル・パリの「Genius App」というアプリは大成功を収め、お客様が購入前に様々なロレアル製品をバーチャルに試すことができるようになりました。我々はこの成功をとても誇りに思っています。 

ロレアル・パリの「Genius App」

また、ロレアルグループのラロッシュポゼのブランドは、太陽の下やビーチで遊ぶ前に子供につけるUVパッチを作りました。これは日焼け止めを塗り直す必要があるときに、それを親が知ることができる、シンプルで便利な価値あるプロダクトの典型例です。

そして、2017年 Facebook 主催のエンジニア向けカンファンレスである F8 (※Facebookが行っている開発者会議)で、カナダで素晴らしい成功を遂げました。F8が開催された同日に、ロレアル・カナダはFacebookメッセンジャー上で友達にロレアルのギフトを送ることができるボットをリリースし、F8で先駆的として取り上げてもらえました。これは素晴らしい評価で我々は大喜びしました。しかし、我々が最も誇りに思っているのは、アイデアの発案からリリースまでのスピードの速さです。

カナダのチームは、モントリオールにあるAutomat Technologiesというパートナーと協力して、4ヶ月という短い期間で発案と開発、リリースを行えました。これは、我々がデジタルのスピードに合わせて動いている素晴らしい例です。

ーーとても素晴らしいプロダクト事例です。デジタル・トランスフォーメーションによりロレアル・カナダは他にどう変わりましたか。

マーケティングにおいて、我々はかつて広告やメディアへの投資をブランドの健全性と同一視していました。現在も一部の大型ブランドではメディアにかなりの額を費やしていますが、NYX のようなプロフェッショナルブランドは、ほとんどが UGC (ユーザー生成コンテンツ)とインフルエンサーによって牽引されています。

ロレアルが新規顧客で話題性と関連性を維持するためには、YouTubeのハウツー動画やInstagramのインスピレーショナルな画像を、新しいチャネルや戦術として取り入れる必要があります。これらは、デジタルが今日の広告や市場開拓の方法をどのように変えたかのほんの一例です。

DX成功の背景にあったのは創業者のDNA

ーーデジタルコンサルタント会社の L2 は、ロレアルがデジタルリーダーであることを定期的に称賛していますが、それには雇用やトレーニング以上のものが必要でしょう。100年以上の歴史を持つグローバル企業のロレアルがデジタルを取り入れることができた理由は何だと思いますか?

おっしゃる通りです(笑顔)。ここまで来れたのは雇用やトレーニングだけのおかげではありません。まだまだ先があると認識していますが、これまでのDXの進展を誇りに思っています。当社の成功の重要な部分は、実は創業者にまでさかのぼります。

それは、1909年に会社を設立した時の、起業家精神です。創業者のEugene Schuellerは、創業当初から、美容、ヘア、ファッションに関する研究と革新に絶え間なく取り組んでいましたが、ロレアル製品に新しい市場を開拓することにも同様に力を注いでいました。例えば、ロレアルの製品は、創業から10年後にはすでにアメリカとカナダで販売されていました。このような国際的な展開は、1920年当時、ほとんど前例がありませんでした。彼は真の起業家であり、入社15年目のベテランとして言えることは、その起業家精神は今日の私たちのDNAと文化に非常に生きているということです。

ロレアルでは、「プロセス」よりも「人」を重視してきました。だからこそ、情熱、革新、オープンマインドのような価値観が、我々にとって、そして我々の成功にとても重要なのです。ビジネスは冒険だと考えており、実際に公表している当社の価値観で「冒険心」が書かれています。ロレアルでは従業員に自治性と冒険心を持ってほしいのです。

創業者から生まれたこれらの価値観は、非常にユニークな経営スタイルを生み出しています。ある意味では、我々を常に前進しているスタートアップのようなものだと思っています。ロレアルは108年の歴史を持つスタートアップ企業なのです。

試して学ぶは当たり前。失敗した社員には報酬を与える

ーーDXに取り組んでいる多くの企業が、スタートアップとして振る舞うことの重要性について話していますが、それを実際にできている企業はごくわずかです。ロレアル・カナダはどうやってそれを実現しているのでしょうか?

これは歴史に起因しているものでもあり、今から発明したり、作り上げたりすることは難しいです。幸いにも創業者がイノベーターであったため、DXで必要とされている「試して学ぶ」という考え方はロレアルにとっては変革ではありませんでした。どちらかというと、この考え方は最初からあったのです。しかし、会社が大きくなり、成功を収めるにつれて、これらの価値観や行動の一部を見直す必要が出てきたことがなかったというと嘘になります。「試して学ぶ」ということだけではなく、失敗を恐れない考え方も欠かせないことです。ロレアルは結果を問わず挑戦することを重視し、失敗した社員に報酬を与えることもしています。安全に行動するために挑戦しないということは目的と異なります。このような考え方があるからこそ、DXに必要なマインドを持つ人材を惹きつけ、維持することが出来ています。

しかし、課題もまだまだあります。

実際、私たちは長年にわたって「完璧」という考えに悩まされてきました。それは、私たちが事業を展開し、製品を製造しているカテゴリーのためでもあります。完璧さを求めるあまり、私たちは常に素晴らしいとは言えないものを発売することに抵抗を感じていました。議論や分析を繰り返して実際に販売するまで非常に時間がかかりました。このような行動は、デジタルの世界ではありえません。私たちは機会を失い、動きがあまりにも遅すぎました。今でも完璧を求めていないわけではありませんが、例えばMessengerボットのように、製品をより早く市場に投入するために、より速く動くことができるようになったのは確かです。発売時に完璧である必要はありません。そのために、私たちはテストと学習を行い、より良いものをより早く作り続けています。

DXがうまく行っているもう一つの理由は、ロレアルの従業員が自ら進んで変わろうとする能力と意思を持っているということです。DXは、社内の従業員がまず自分自身を変えようとしない限り、成功できません。ロレアルでは、CEO から新入社員に至るまで、すべての社員が自分自身を変えようとしています。さらに驚くべきことは、変革を待つのではなく、市場シェアが拡大し、キャッシュが豊富で、株価がほぼ過去最高になったときに変革を行ったことです。うまく行っているときに自己満足の罠に引っ掛かり、気づかないうちに遅れを取る前例がたくさんあります。この罠に引っ掛からないことはロレアルの文化のおかげであり、私はとても誇りに思っています。

。DXは、社内の従業員がまず自分自身を変えようとしない限り、成功できません。

DXを始めるなら今すぐに

私はアドバイスをするのが苦手です。というのも、すべての組織や企業に合うレシピは存在しないからです。幸いなことに、私の会社では常に改革が行われてきました。そのおかげで、おそらく他の会社では考えられないほど、社員を変革に合わせるのが簡単でした。私が言いたいことはこうです。あなたの会社を成功に導いてきた何かを、あなたの歴史やルーツの中に見出さなければなりません。それは自社の強みでありながら、デジタル時代に向けて再発明できるものです。我々は今でもロレアルですが、以前からあった起業家精神の強さを活かして自分たちを変えることができました。自分を変えさせてくれる適切なものを組織の中で見つけなければなりません。

もうひとつのアドバイスは、「待つな」ということです。今ほど、変革を始めるのに適した時期はありません。

市場の競争が激しくなることはなく、この分野の複雑さは増すばかりです。今すぐ始めましょう。待つ必要はありません。あなたの判断が遅れることによって問題の複雑さは増すばかりか、競合に致命的な差をつけられると考えるべきでしょう。


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プロフィール/ヒルトンバーバー

カナダ出身のコンサルタントで、組織文化を活用したデジタルトランスフォーメーション推進のスペシャリストです。詳細は https://www.hiltonbarbour.com/ をご覧ください。
Hilton Barbour is a Canadian consultant specializing in helping organizations leverage organizational culture to accelerate their digital transformation. You can find out more about Hilton at www.hiltonbarbour.com