デジタルトランスフォーメーションにおける自己満足の罠

自己満足の罠

編集部から一言:本記事はHacker NoonのContributor of the Year 2020を入賞したRyan Dawson著が執筆した『Digital Transformation: Beating the Complacency Trap』をDX Review編集部が本人の協力の元、日本語に翻訳したものである。

現在も日本の大手企業はデジタルトランスフォーメーションの遅れ、あるいはそもそも着手すらできない事態に直面している。

どの企業もスタートアップから始まり、一人のアイデアを実現するために挑戦から生まれる。血と汗と涙を流しビジネスを成功させ業界のリーダーになる。数十年が経ち、成功をもたらした役員の元に何千人ものトップ大学卒の優秀な人材が集まる。

このようなにビジネスの成功方法も知っていて優秀な人材にも囲まれている、何でも克服できそうな企業がなぜデジタルトランスフォーメーション(DX)に失敗するのだろうか。本記事は事例を紹介しながらこの問いに対して答えを出し、同じ罠に引っかからないようにどうすべきかというヒントを提示する。

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に関する記事では、アマゾン(Amazon)が本屋を時代遅れにした話や、ネットフリックス(Netflix)がレンタルストアをディスラプトした話がよく挙げられる。全て大胆でそれぞれの業界に大きな変化をもたらした話である。しかし、DXの目的は業界を変えるというわけではない。

DXの目的は、新規企業に追い越されないように、企業としてより機敏になる事だ。言い換えると、本屋やレンタルストアのようにディスラプトされないようにする事である。

The Technology Fallacy の著者がこのゴールを簡明にまとめており、これをDigital Maturity (デジタル成熟性)と呼んでいる。

組織の人々、文化、構造、およびタスクを調整して、組織内外のインフラストラクチャによって可能になる機会を活用し、競争優位に立つ

つまり、DXの目的は企業としてデジタル成熟性を手に入れることだ。しかし、詳しくいうとこれはどういう事なのか。また、なぜこれがそんなに難しいタスクなのかという点を紹介する。

混乱がどのように起きるか:自己満足の罠

なぜネットフリックの台頭が米Blockbuster(ブロックバスター、店舗型DVD貸し出しサービスの大手)にとって致命的だったのだろうか。ネットフリックスのビジネスモデルを真似できなかった事は決してなかった。むしろ、ネットフリックスを買収する機会があったのに検討もしなかったという。(ネットフリックスの事例について詳しくはこちら

米ブロックバスターがNetflixにディスラプトされたことは自己満足の罠の典型例だ。

ブロックバスターはビデオ配信が映画のレンタルにどれほどの脅威を及ぼすかを侮っていた。しかし、これはただの判断ミスではなく、Complacency Trap (自己満足の罠)の典型例だ。

当初のアイデアが良ければ、顧客への価値が認められれば基本的には企業は成長する。彼らは顧客の市場を見つけ、その市場のより多くにサービスを提供するために大きな注文を得る必要がある。これを効率良くこなすため、大概の企業は当初のアイデアであるコアのサービスにのみ集中している。しかし、このように一つのものに集中する事により競合上の優位性を最大化できる効果はあるものの、他の道(代替パス)が見えにくくなることも意味する。鹿を追う者は山をみず。

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