日本企業のDXは「平成、失敗の本質」に学べ

日本企業のDXは平成、失敗の本質に学べ

長年の日本企業の問題が放置

連載第1回:「新型コロナと日本企業のDX

IMDの世界デジタル競争力ランキングで「企業の俊敏さ」に関して日本企業は世界最下位の63位であることは前回、紹介した通りである。ところで、IMDの世界世界デジタル競争力ランキングで日本が世界最下位になっている項目は他にもある。

例えば、人材の「国際経験」である。なぜ人材の国際経験がDXに関連するのかと擬問もあるかもしれない。世界の経営者は「経営の定点観測点」を持っており、それは世界的な経営者の集まりであったり、自分が卒業したビジネススクールのアラムナイ(卒業生)のイベントやネットワークであったりする。そういう世界的な「経営の定点観測点」を持っていると、何が「最重要経営アジェンダ(経営課題)」なのか、速やかに知ることができる。だからDXが最重要アジェンダだとわかれば変化への対応が速い。

グローバルなレベルでこのような定点観測点を持っている日本企業の経営者は、依然として残念ながら必ずしも多くはない。ネットワークに入れていないから、「アジェンダ」を知るのが遅れるし、またその重要性についても深くは理解できない。そもそも、一般的に日本企業の経営トップはITリテラシーが必ずしも高くないから尚更だ。従来の基幹システムは一度作ってしまえば長年使い続けるのが通例。そうなると経営資源の投資は、とりわけ人的資源の投下は必要最低限に留められ、世界的にも珍しいIT業務の「ベンダー依存」という状況が生じていた。

さすがにこのような状態ではDXどころではないと、2018年に経済産業省が危機感を持って出したレポートが『2025年の崖』である。この状態を2025年までに解消しなければ、日本企業は奈落の底に落ちる、という警告である。

しかし考えてみれば、日本企業における意思決定の遅さや人材の国際経験の不足は、今に始まった問題ではなく、長年、指摘されてきた問題である。日本企業におけるDXの推進が加速されない一因は、実は従来から日本企業の問題として指摘されていたことを放置していたことにもある。それらのメスを入れることなしに、DXの推進は実現し得ないと認識すべきである。平成の時代、日本企業の多くが低迷した「失敗の本質」に学び、長年の日本企業の未解決の問題にメスを入れなくして、DXでの成功はあり得ないと認識すべきである。

「平成、失敗の本質」に学べ

平成の時代、ビジネスの世界で日本は負け組であった。世界的な企業ランキングである「フォーチュン500」で、1995年にはトップ50社中21社を占めていた日本企業は、2020年にはわずか3社に減ってしまった。従来からランクインしていた企業の競争力の衰退と、新興企業がランクインしないという企業界の新陳代謝の悪さが目立っている。アフリカなどの新興市場での事業拡大など新しい事業機会を掴むことができなかったし、製造業におけるモジュラー化の進展など、従来の日本企業の強みを発揮しにくい変化も起こった。

従来の強みが発揮できない環境変化が起こり、特定の戦略原理に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった日本軍と同じような状況に日本企業は陥った。

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プロフィール/一條 和生(いちじょう かずお)

一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻 専攻長・教授

一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。フルブライト奨学生としてミシガン大学経営大学院に留学し、Ph.D.(経営学博士)を取得。一橋大学講師、社会学部専任講師、同助教授、同大学院教授を経て、現職。2003年にはスイスのビジネススクールIMDで日本人初の教授として勤務。現在、株式会社シマノ社外取締役、ぴあ株式会社社外取締役、株式会社ワールド社外取締役、株式会社電通国際情報サービス社外取締役 他