経産省「DX銘柄2020」直接取材で見えた受賞35社の共通点とは?

経産省「DX銘柄2020」直接取材で見えた受賞35社の共通点とは?

2020年9月16日に菅内閣が発足。様々な方針や政策が矢継ぎ早に打ち出される中で、注目されている政策の一つにデジタル庁の設置があげられる。デジタルトランスフォーメーション(DX)の注目度も益々増加。今まさにバズワード(流行語)化している状態でもあるが、DXをただの流行として終わらせてはいけない。

Google ドレンド「デジタルトランスフォーメーション」
Google ドレンド「デジタルトランスフォーメーション」

デジタル技術を前提としたビジネスモデル・経営変革に取り組む上場企業はどこか?2020年8月25日、市場から注目を集める「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄 2020」を経済産業省と東京証券取引所が発表した。

「DX銘柄2020」に選定された企業は、鹿島建設、ダイダン、アサヒグループホールディングス、日清食品ホールディングス、東レ、富士フイルムホールディングス、ユニ・チャーム、中外製薬、ENEOSホールディングス、ブリヂストン、AGC、JFEホールディングス、小松製作所、ダイキン工業、コニカミノルタ、富士通、ヤマハ発動機、トプコン、大日本印刷、東京ガス、東日本旅客鉄道、Zホールディングス、NTTデータ、住友商事、トラスコ中山、Hamee、日本瓦斯、りそなホールディングス、大和証券グループ本社、SOMPOホールディングス、東京センチュリー、GA technologies、三菱地所、DeNA、セコムの35社。

この中で特に「デジタル時代を先導する企業」として、小松製作所、トラスコ中山の2社が「DXグランプリ2020」として発表された。

DX銘柄2020の企業一覧
DX銘柄2020の企業一覧(出典:経済産業省「DX銘柄2020」選定企業レポート)

また、DX銘柄に選定されていない企業の中から、総合的評価が高かった企業、注目されるべき取組を実施している企業21社を「DX注目企業」として選定。サッポロホールディングス、帝人、三菱ケミカルホールディングス、花王、大日本住友製薬、THK、IHI、NEC、カシオ計算機、川崎重工業、SGホールディングス、野村総合研究所、伊藤忠テクノソリューションズ、PALTAC、ワタミ、丸井グループ、三井住友フィナンシャルグループ、ふくおかフィナンシャルグループ、東海東京フィナンシャル・ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、応用地質が選定された。

DX注目企業2020の企業一覧
DX注目企業2020の企業一覧(出典:経済産業省)

企業評価に直結するとして市場関係者からの注目度が高い「DX銘柄」。その選定基準や特徴を知ることは、企業が今後デジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する上でも重要な学びが多いはずである。そんな期待を持ちながら、経産省で「DX銘柄2020」を担当されている宮本さんに、制度の狙いや選定企業の特徴について話を伺った。

DX銘柄2020とは

――DX銘柄2020の概要を教えてください

2015年から東京証券取引所と一緒に行っている「攻めのIT経営銘柄」が前身です。

積極的なIT利活用に取り組まれている企業を世に出すことによって目標となる企業モデルになってもらうこと、それを見た企業経営者のIT利活用に関する意識変革を促すこと、投資家等への紹介を通じて評価を受ける枠組みを新たに創出するなどの目的で開始しました。

今回2020年から名称を「DX銘柄」に変更しました。企業を選定して広く公表するという点は変わりませんが、違いとして攻めのIT経営という観点だけではなく、ビジネスの変革や戦略的取組、経営者のリーダーシップ等の観点も含んで評価選定をすることにしたというのが一つの特徴となります。

DXを巡る状況とデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)の狙い
DXを巡る状況とデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)の狙い
(出典:経済産業省)


東証上場企業幅広い業種が応募

――今回どれくらいの企業が応募されたのですか?

「DX銘柄2020」の応募に必要なデジタルトランスフォーメーション調査2020には、535社の企業にご回答いただきました。東証上場企業が約3,700社なので、概算ですが7社に1社にご関与いただいたことになります。

――それはすごいですね。応募された企業の特徴なども教えてください

本当に幅広い規模や業種の企業様がいらっしゃいます。例えば、情報通信業が応募の8割を占めるというような偏りがありません。このこと自体が特徴と言えるかもしれません。

この結果は幅広い企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるとも言えるので、我々としてはすごく嬉しいことです。もともと幅広い業種の企業に参加してほしいという思いもあって、銘柄は基本的に1業種1社という形で選定ルールを設けていましたので。

デジタルを前提に経営の考えを再考しているか

――今回選定された企業の共通点はありますか?

先ほど企業の業種や規模は色々あると話ましたが、共通していることは「DXを会社全体の取組みと捉えている」ことです。

今回選定された企業の共通点はDXを会社全体の取組みと捉えていること

また、自社を取り巻く環境から課題を分析して、その課題解決の手段としてデジタル技術を活用しているという点もあげられます。しっかりとデジタル技術の特性を理解した上で各種デジタル化を行っていたということですね。

選定された企業は既存のやり方に固執せず、デジタルの力によって自分たちのビジネスモデルをどう変えていけばより価値が出るのかという点が明らかでした。

実はここが単なるデジタル化とデジタルトランスフォーメーション(DX)の違いだとも考えています。単純に業務を置き換えるとかではなく「デジタルを前提に経営の考えを再考する」といった点が非常に重要です。

――技術的観点だけではないということですね

もちろん、結果として高い技術が使われているという点はあります。何かを解決する時により高い技術の方が解決度合いが大きいということもありますので。ただし、それはあくまで結果であって、技術だけが先ではないということです。

繰り返しになりますが「デジタル技術の活用を前提に経営そのものがアップデートされているか」という点が選定された企業の共通項としてあると言えるのではないでしょうか。



DX銘柄2021の選定基準をアップデート中

――今後の展開についても教えてください

今まさに、Society5.0時代のデジタルガバナンス検討会が行われていて、その中で複数のワーキンググループが立ち上がっているところです。その一つのグループで「DX銘柄2021」の銘柄の評価基準を検討しています。

今回お伝えしたことはあくまで「DX銘柄2020」の話です。もちろん大きなベクトルは変わらないのですが、「DX銘柄2021」に関してはその基準もアップデートしていきます。

このあたりは現在絶賛検討中です(笑)

「DX銘柄2021」については、2020年11月頃を目途に詳しい情報なども出せればと思っていますので、情報が公開されましたらぜひ1社でも多くの企業に申し込んで欲しいです。

※DX Review編集部追記
2020年11月18日に「DX銘柄2021」に関する情報アップデート及び対象企業のアンケート受付開始が経産省からアナウンスされました。詳細はこちらをご覧ください。

DXは情シス部門だけの話ではない

DXは情シス部門だけの話ではない

――DXを上手く推進している企業の特徴などはありますか?

デジタルトランスフォーメーション(DX)は単なるデジタル化をするという話ではなく、経営ビジョン全体の中でデジタルをどう位置づけるかという話です。戦略はもちろん、体制構築・組織変革もにらみつつ、自分たちの持っているシステムをどうするか等の観点も求められます。DXを情報システム部門やデジタル部門だけの話にしてはいけません。

そして、AIやIoT、ブロックチェーンなどの技術をただ使えば良いという訳でもありません。デジタルを前提とした経営戦略がまずあって、その上で自社の方向性に合ったものを上手く選ぶということが重要です。

「DX銘柄」の制度を通じて、会社全体で経営アジェンダとしてデジタルトランスフォーメーション(DX)を捉える企業が1社でも2社でも増えて欲しいです。

また、デジタルトランスフォーメーション(DX)が日本国内のあらゆる企業にとって必須な取組みであることは間違いありませんが、成果が出るには時間もかかります。そういった面では「DX銘柄」で素晴らしいDXの取組みをしている企業を積極的に紹介し続けることで、「DXを一時的なバズワードで終わらせない」ようにもしていきたいです。

宮本 祐輔
経済産業省 情報技術利用促進課(ITイノベーション課)・課長補佐
民間企業を複数社経験後、経済産業省に入庁。地域経済や地方創生関連の仕事に従事した後、2020年6月より現職。DX銘柄を含む情報処理システムの利用高度化を担当している。